忘れないと誓ったぼくがいた
Saturday, March 18, 2006
[novel]
著者は自身が帰国子女なのかな。それによって、帰国子女の描写に対する感じ方が大きくかわってきそうです。あらすじだけ抽出すれば間違いなく私が好きな物語にもかかわらず、終始違和感を覚えてしまったのは多分、意図的に軽く読みやすくした文章がどうしても合わなかったのだと思います。
高校時代。優等生だったぼくの心を一瞬にして奪い去った君。大好きで、いつもいたくて仕方がなかった。なのに、いま、ぼくは君の顔さえも思い出せないんだ。いったい、なぜ? 君はホントに存在したの?
ある日少年が少女に出会い、恋におちるという、典型的なボーイミーツガールの物語。けれど物語は、冒頭から喪失の気配に満ち満ちています。「いなくなる」というのはどういう現象なんだろう。死ぬということなのか、物理的に引き離されるということなのか、忘れるということなのか。たとえすぐ側にいたとしても、その人のことを誰も認識できなくなってしまったとしたら、その人はいなくなったということになってしまうのか。物語の中で少女に起きた現象の真相は「時の裂け目に消えゆく」と比喩されているものの最後まであかされることはなく、少年と少女は、ただその不条理な現象によって引き離されてしまいます。
物語はフィクションだけれども、遠いむかしをふりかえるときに、何があったかという事実はおぼろげに記憶していても、そこに伴っていたはずの諸々の感情をどうしても思い出せないという喪失の経験は、刊行記念インタビューにもあるように、きっと老若男女どなたでも「身に覚えのある」ことなんじゃないかと思います
。
